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Japanische Klassiker mit Furigana

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えのきものがたり

榎物語

山本 周五郎

Lesen Sie 榎物語 (えのきものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.519 Zeichen · 67 Bildschirme

Aozora Bunko

「文のやりとりなどしたことはありません」とさわは答えた、「これまで一度も受取ったことはありませんし、こちらから出したこともございません、あたしあの人がどこにいるかも知らないんですから」

半左衛門は信じなかった。叱る言葉はさらに荒く、毒と悪意さえ感じられた。さわは眼をつむった。風と豪雨のどよめく中に、川の水音が聞えて来た。魚野川が怒っている、とさわは思った。降り続く雨で、魚野川は昨日あたりから増水していた。信濃川のほうでは今朝、二三カ所で堤が切れた、という噂もあった。眼をつむったさわには、魚野川や、それに合流する枝川の、たけり狂う濁流が見えるように感じられた。

「返辞をしないか」と半左衛門は叫んだ、「こんなふしだらなことをして、悪かったとは思わないのか」

さわは眼をつむったままで、極めてゆっくりと、かぶりを左右に振った。

河見の家名や親の顔に泥を塗る、いいえ、あたしには家も親もありません、とさわは心の中で云った。小さいじぶんから、あたしは河見家の子のように扱われたことはなかった。親の愛情を知らないばかりか、心配されたり構われたりしたこともない。あたしは不縹緻な、気のきかない、おどおどしている子だった。