Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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せっしょうだにのおにび

殺生谷の鬼火

山本 周五郎

Lesen Sie 殺生谷の鬼火 (せっしょうだにのおにび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.545 Zeichen · 19 Bildschirme

Aozora Bunko

「爺や、僕には信じられないよ」

「誰に信じられますべえ、――だが事実はどうにもなりやせん。大旦那さまはそれ以来ぐっと病気が重って……」

老人は言葉を切って云った。

「さあ、お屋敷へ着きましたぞ、若旦那さま」

そして馬車は、がらがらと石畳を鳴らしながら椙原家の門の中へ入って行った。

馬車の音を聞きつけたのであろう、玄関には妹の千代子が、眼を泣腫らした哀れな姿で出迎えていて、敦夫が入って行くなり、

「お兄さま!」

と泣きながら縋りついた。

「大変な事になったね、さぞ吃驚したろう。だが十八にもなってそう泣くなよチイ公、――兎に角お父さまに会おう」

「いまお眠ってらっしゃるの」

「そうか、それじゃあお起きになるまで君と少し話をしようか」

敦夫は態と元気を装いながら、洋館の広間へ妹と一緒に入って行った。――ふだんあんなに陽気で、罪のない悪戯をしては家中の者を笑わせていた千代子が、恐ろしい出来事のためにすっかり脅え、美しい眸は絶えず襲われているように落着かなかった。平造老人の話を聞いただけでは多少まだ疑わしく思っていた敦夫も、この妹の哀れな変りようを見ては奇怪な事件の真実さを認めずにはいられなくなった。