Japanische Klassiker mit Furigana
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ははのじょうきょう
母の上京
Lesen Sie 母の上京 (ははのじょうきょう) von Sakaguchi Ango (坂口 安吾) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.655 Zeichen · 33 Bildschirme
穏やかだが、突きつめたヒロシの意志がその中へ食ひこむやうであつた。
「外へ泊るといつても、今日は、それほどの持ち合せもないのでね」
「そんなこと、かまやしませんわよ」
「さうかい。上野も近いしね。浮浪児の仲間入りをするか」
浮浪児の仲間入りといふよりも、ヒロシの仲間入りと言ひかけるところであつた。初夏の夕風が爽やかだ。そして薄明がねつとりしてゐた。
ヒロシは女の言葉を使ふが、男であつた。然し心はまつたく女だ。歌舞伎の下ッ端で、オヤマの修業をしてゐたのだが、戦争中から食へなくなつて、オコノミ焼の居候をしてゐた。焼けだされて、オコノミ焼の家族と共に、夏川の隣室に住んでゐた。夜になると淫売に出て行くらしい話であつたが、元々歌舞伎の下ッ端の頃から幇間なみにお座敷へでて遊客の玩弄物に育つてきた。けれども同じお座敷育ちの芸者たちが日増しに荒れ果てた心に落ちるのに比べれば、二十二のヒロシはまだ十七八のお酌と一本の合の子ぐらゐにウブなところが残つてゐた。それは貞操に関する自覚の相違によるものだらうと夏川は思つたが、又、その慎しみ深さや、あらはなことを憎む思ひや、生一本の情熱は、古典芸術の品格の中で女の姿を習得した正しい躾が感じられて、時に爽快を覚えることもあつたのである。