Japanische Klassiker mit Furigana
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けのゆびわ
毛の指環
宮本 百合子
Lesen Sie 毛の指環 (けのゆびわ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.492 Zeichen · 9 Bildschirme
ぽつぽつ小さい穴や大きな穴の出来たその古前掛は、並はずれて丈がつまっているだけどこやらあどけない愛嬌さえある。
「あら感心にまだこの紐がちゃんとしている」由子は一種の愛惜を面に表して、藤紫の組紐をしごいたりしたが、やがて丁寧にそれを畳んで、お清さんの前へ置いた。
「あなた大働きだから、勲章にこれさし上げます」
「おやまあ」
お清さんは、笑いながらそれを戴いた。
「恐れ入ります。じゃ、いただいといて家宝にでも致しましょう」
真面目腐って立ち上ったが、座敷を出ながら、
「でも本当に可愛いんですね、しまっときますよ」
ただ虫が喰っただけだとは思ったが、由子はそのまま黙っていた。
その紫の小さい前掛に特別な連想や思い出がある訳ではなかった。ただ、平常前掛をしない由子が、何年か前、気まぐれに拵えた紫前掛、その色の古風なところも、そのまま偶然虫に喰われながら出て来て見ると憎らしい心持もしない。ホホウ! そして何だか微笑まれる。紫の布ッ端とばかり感じられない親密さがあるのであった。
宏やかな自然の風景を写している由子の意識の上に暫く紫の前掛が鄙びた形でひらひらした。段々その幻影がぼやけ、紐だけはっきり由子の心に遺った。