Japanische Klassiker mit Furigana
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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
Lesen Sie 江戸情話集 (かごつるべ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.779 Zeichen · 407 Bildschirme
綾衣の膝からすべり落ちた三栖紙は白くくずれて、彼女は懐ろ手の襟に頤を埋めた。何か言いたい大事なことが喉まで突っかけて来ていても、今はまだ言うべき時節でないと無理に呑み込んで、彼女はきっと口を結んでいた。
やわらかい雨の音はささやくように低くひびいた。近所の小店で時を打つ柝の音が拍子を取って遠くきこえるのも寂しかった。行燈の暗いのに気がついて、綾衣は袂をくわえながら、片手で燈心をかかげた。その片明かりに映った外記の顔はいよいよ蒼白かった。
「まあ、いい。その時はその時のことだ。取り越し苦労をするだけが馬鹿というものだ」と、外記は捨て鉢になったように言った。
「ほんとうに、どうなるやら知れない先きのことを、前から苦労するのは馬鹿らしゅうありんすね」
運命の力が強く圧しつけて来るのを十分に意識していながら、男も女も堪えられるだけは堪えて見ようと、冷やかに白い歯を見せていた。しかもその歯を洩れる息は焔であった。
五
団十郎の芝居にありそうな仲の町の華麗な桜も、ゆく春と共にあわただしく散ってしまって、待乳の森をほととぎすが啼いて通る広重の絵のような涼しい夏が来た。