Japanische Klassiker mit Furigana
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きてき
汽笛
佐左木 俊郎
Lesen Sie 汽笛 (きてき) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.469 Zeichen · 10 Bildschirme
足を踏み外さないようにと用心する動作は過去の記憶を蘇らすのだった。
――今の妻の家の前を、彼女が窓から観ていることを意識しながら、口笛を吹き鳴らし、綱渡りの格好で軌条の上を渡り歩いたころを。その窓からは、あの秋子の蒼白い顔ばかりでなく、父親の吉川機関手が、真っ黒い髯面を覗けていることがあったことを。
柴田貞吉は秋子を連れて官舎を出て行った。
鉄道線路の高土堤が町端れの畑の中を走っていた。さながら町の北側に立ち回した緑色の屏風だった。長い緑の土堤には晩春の陽光がいっぱいに当たっていた。その下は土を取った赭土の窪地。歳を取ったどすぐろい汚水、死に馬の眼のような水溜まりだった。水面には棒切れや藁屑が浮いていた。岸に幾株かの青い若葉の猫柳。叢の中からは折り折り蛙が飛び込んだ。鈍い水の音を立てて。
清新な暖かい気流、麗らかな陽光。静かに青波を打つ麦畑。煤煙に汚れた赤煉瓦の建物が、重々しく麦畑の上に、雄牛のように横たわっていた。白い煙突からは黒い煙が渦を巻いて立ちのぼった。そしてだんだんと赤味を帯びながら悠長にたな引くのだった。
彼等二人は青草の土堤に腰と背とを当て暖かな陽光にひたった。