Japanische Klassiker mit Furigana
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うたかたのき
泡沫の記
久生 十蘭
Lesen Sie 泡沫の記 (うたかたのき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.889 Zeichen · 26 Bildschirme
湖畔の散歩道を縁どる楡の木の葉越しに、対岸の丘の下を湖畔鉄道の玩具のような小さな汽車が走っているのが見える。なにもかもおだやかな風景のなかにしずまり、この幽邃な湖のほとりで、昨日、あんな悲劇があったとは、どうしても信じられなかった。
王の服の衣嚢にあった時計は、七時七分前で停っていたから、湖畔の椿事は六時五十分ぐらいにはじまり、十五分ぐらいの間に、万事が終ってしまったのだと思われる。
現場報告の公報は、いちいち証跡が示すとおりのもので、疑義をさしはさむ余地はないのだが、仔細に読み返すと、どこかに重大な欠落があるような、もどかしさを感じる。
博士は王を追って浅瀬へ入りこむ。服の後身が裂けるほどの格闘があり、それでも終らずに、湖岸から十五歩ばかりのところで、もう一度、長いあいだ揉みあった。そのすえ、どういう心境の変化からか、博士は卒然と王を追うことを断念し、湖底の泥に膝をつき、拝跪するような恰好で、(たぶん自分で溺れて)死んでしまった。
博士は水泳が上手で、この湖水で泳いでいるので湖底の状況に通じている。そんなことは別にしても、現場の模様は、岸から五十メートルほど先まで遠く浅瀬がつづき、溺死しようにも、やりようがないわけだった。