Japanische Klassiker mit Furigana
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うみにいくるひとびと
海に生くる人々
葉山 嘉樹
Lesen Sie 海に生くる人々 (うみにいくるひとびと) von 葉山 嘉樹 (はやまよしき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 161.305 Zeichen · 321 Bildschirme
一四
わが万寿丸は、三日間の道を歩んで、その夜十一時ごろ横浜港外へ仮泊するはずだった。船は勝浦沖を通った。浦賀沖を通った。やがて横浜港の明るい灯が見え初めるであろう。
横浜は、水夫ら、火夫らの乳房であった。それを待ちあぐむ船員の心は、放免の前日における囚人の心にも似ていた。
東京湾の波浪も、太平洋の余波と合して高かった。梅雨上がりの、田舎道に蟇の子が、踏みつぶさねば歩けないほど出るのと同じように、沢山出ているはずの帆船や漁船は一艘もいなかった。観音崎の燈台、浦賀、横須賀などの燈台や燈火が痛そうにまたたいているだけであった。しけのにおいが暗の中を漂っていた。落伍した雲の一団が全速力で追っかけていた。
それでも、もう本船が、酔っぱらいのように動揺する。というようなことはなかった。本牧の燈台をながめて、港口標光を前にながめながら、わが万寿丸は横浜港外に明朝検疫までを仮泊した。三千トンの重さと大きさとの、怪獣のうなりにも似た轟音と共に錨は投げられた。船はその動揺を止めた。
一時に一切が静かになった。一切の興奮と緊張とが、一時に沈静した。
「一切は明日なんだ。