Japanische Klassiker mit Furigana
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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme
尚子夫人もまた、今もなお彼の心眼にまざまざと浮ぶ信子夫人と、同じほどの年頃である。あらゆるものが、現在は手も、心も届かない彼方に、奪い去られたものではあっても、若し呪咀された運命が、僅かの手心を加えてさえくれたならば、必ず、今日自分の身辺を囲繞(いにょう)する筈の光輝であるのを思うと、正隆は堪え切れない思いが、自ずと胸に迫るのを覚える。
希望は不死鳥なのか、不思議な未来への願望。それを飽くまでも拒絶し、否定し、無に帰そうと努力しながら、なお、希望はそれ等の重い巖の下でさえ育とうとする。
正隆は、恰も、日に輝く大理石の円柱(まるばしら)のような尚子夫人に対して、云いようのない圧迫を感じた。
その微妙な動揺は、永い年月の澱(よどみ)を徐ろに掻き立てて沈滞した心に、異様な苦甘い刺戟を与えるものなのである。
十五
尚子夫人に対する正隆の心持を、概括的に批評すれば、単純に、半ばの嫉妬と冒険心とを、彼の暗い、重い情慾に加えたものだともいえるだろう。
けれども、正隆の心持は、ただそれだけのものではなかった。もっともっと、種々雑多なものが混合していた。