Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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てんきぼ

点鬼簿

芥川 竜之介

Lesen Sie 点鬼簿 (てんきぼ) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.345 Zeichen · 9 Bildschirme

Aozora Bunko

僕はまだ今日でも襟巻と云うものを用いたことはない。が、特にこの夜だけは南画の山水か何かを描いた、薄い絹の手巾をまきつけていたことを覚えている。それからその手巾には「アヤメ香水」と云う香水の匂のしていたことも覚えている。

僕の母は二階の真下の八畳の座敷に横たわっていた。僕は四つ違いの僕の姉と僕の母の枕もとに坐り、二人とも絶えず声を立てて泣いた。殊に誰か僕の後ろで「御臨終御臨終」と言った時には一層切なさのこみ上げるのを感じた。しかし今まで瞑目していた、死人にひとしい僕の母は突然目をあいて何か言った。僕等は皆悲しい中にも小声でくすくす笑い出した。

僕はその次の晩も僕の母の枕もとに夜明近くまで坐っていた。が、なぜかゆうべのように少しも涙は流れなかった。僕は殆ど泣き声を絶たない僕の姉の手前を恥じ、一生懸命に泣く真似をしていた。同時に又僕の泣かれない以上、僕の母の死ぬことは必ずないと信じていた。

僕の母は三日目の晩に殆ど苦しまずに死んで行った。死ぬ前には正気に返ったと見え、僕等の顔を眺めてはとめ度なしにぽろぽろ涙を落した。が、やはりふだんのように何とも口は利かなかった。