Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Lesen Sie 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.705 Zeichen · 173 Bildschirme
大刀を差したままである。湯へ行くにも、刀は離さないのだ。
びっくりした一人が、
「ですが、この、雨の中を――。」
「黙っておれ。雨だとて仔細ない。湯へはいれば、どうせ濡れる。おい、手拭を取れ。」
差し出した手拭を鷲掴みに、出羽守はぶらりと土間へ下りながら、
「一風呂浴びて来て、飲み直しじゃ。今夜は徹宵呑るも面白かろう。湯から上って来るまでに、娘を伴れてきておけ。湯壺へは、誰も来るでないぞ。」
いつも必ず真夜中に、ただ一人で猿の湯へはいりに行くのである。片手で番傘を振りひらいて、篠突く雨のなかへ、刀の鞘を袖で庇いつつ、出羽は、さっさと出て行った。
二階には、この祖父江出羽守を仇敵と狙う伴大次郎が、ものの半月も滞在していて、階下の座敷には、こうしてその当の出羽守が、遊び仲間のような取りまき連中を引き具して泊っている。四六時中覆面して、深夜の入湯のほかはほとんど寝たきり、姿を見せることもないので、大次郎は気が付かなかったのだが、この奇しき因縁は第二としても、遠州相良の城主、菊の間詰、二万八千石の祖父江出羽守が、いくらお忍びとはいえ、こうしてこの粗末な山の温泉に潜んでいるとは――!