Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Lesen Sie 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.705 Zeichen · 173 Bildschirme
「どこの人だろう? まあ、可哀そうな――当分うちに置いて、世話をして上げてもいいけれど、知らせなかったと言われて、あとで恨まれてもつまらない。親兄弟はないのかしら。」
お多喜が、狂女の顔を見つめて、こうした物思いに耽っているとき、土間に人かげがさした。
見ると、宗七だ。
宗七が、今ぶらりと帰って来たところだ。
出る時着て行った浴衣が、すっかり旅に汚れて、どんよりと、疲れた顔をして立っている。
一眼見るとお多喜は、狂女をそのままに、転がるように上り框へにじり寄って、
「お前さん! なんだい、いまごろ、妙な顔をして帰って来てさ。」
宗七は、お多喜の前へ出ると頭が上らないらしく、それに長らく家を明けた弱味もあるので、
「いま帰ったよ。」
「今帰ったよもなにもないもんだ。いったいどこへ行っていたのさ。」
「山へ行って来たんだ。」
じっさい宗七は、いま三国ヶ嶽から帰ったところなのである。
が、何も知らないお多喜は、そんなことは頭から信じないので、
「山だって? 山とは何のことさ。ぶらりと家を出て、山へ行く人もないもんだ。いいかげん人を馬鹿にしたことを言うがいいよ。」