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Japanische Klassiker mit Furigana

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ちちのかたみ

父の形見

豊島 与志雄

Lesen Sie 父の形見 (ちちのかたみ) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.879 Zeichen · 14 Bildschirme

Aozora Bunko

正夫よ、君はいま濃霧のなかにいる。眼をつぶってじっとしていると、古い漢詩の句が君の唇に浮んでくるだろう。幼い頃、父の口からじかに君が聞き覚えたものだ。

その頃君の父は、土地の思惑売買に失敗し、更に家運挽回のための相場に失敗し、広い邸宅を去って、上野公園横の小さな借家に移り住んでいた。君の母はもう亡くなっていた。老婢が苦しい世帯をきりもりしてくれた。父は感情の調子で時々酒を飲んだ。陶然としてくると、君を連れて散歩に出た。公園下に、まだ電車が通っていない時分で、木のベンチが並んでいた。

「正夫、見てごらん、星が、きれいだろう。」

そう云って、酔ってる父はベンチの上に仰向にねそべり、小さな君はその側に、足先を宙に腰掛け、或は地面に膝をついてよりかかり、星を眺め、池を眺め、父を眺め、しまいにはうとうとと眠りかけるのだった。蚊が多かった。君ははっと眼をあいて、首筋や脛をぼりぼりかいた。父も着物の袖で蚊を追いながら、君の方を顧りみて微笑した。それから中声で詩を吟じた。

霜満軍営秋気清……云々

鞭声粛粛夜過河……云々

蛾眉山月半輪秋……云々

月落烏啼霜満天……云々

高原弔古古墳前……云々