Japanische Klassiker mit Furigana
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ちち
父
矢田 津世子
Lesen Sie 父 (ちち) von 矢田 津世子 (やだつせこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.168 Zeichen · 38 Bildschirme
ただ、眼を覆いたいうとましさだけがくる。そのくせ眼前の飯尾さんをみるとつくづくこの年寄りが、と何かしら可笑しくなってきて、この顔がなまめいたらどんなかと、ああもこうも想像してはしらずしらずに好奇心をそそられていく。そんなことで気もちがそれて紀久子は話すのが一そう億劫になった。そして用事を思いたった気忙しい様子で不意に座を立った。
「あの、お姉さんね、この間の染物のこと飯尾さんにお頼みしてくれるようにって云ってらしてよ」
「ああそのことならさっき通りでお伺いしました」
飯尾さんは少々気ぬけのした顔になった。煙管で頬のあたりを掻きながら茶の間を出て行く紀久子へ、
「旦那様の御旅行のお支度でしたらお手伝いいたしましょうか」と尋ねた。それで、明朝の父の新潟行きを紀久子は思い出したので離れへ行きかけた足をちょっと停めた。そして、
「いつもの通りですから独りで結構よ」
と廊下から声をかけて父の居間へ入り袋戸棚からスーツケースを下した。新潟にある鉄工場を見廻りに父はひと月に二三度はこうして出かけるのだった。旅といっても仕度をする程のこともなく、汽車の中で使うタオルにハンカチを余分に二三枚用意しておくだけでよかった。