Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼたん
牡丹
宮本 百合子
Lesen Sie 牡丹 (ぼたん) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.684 Zeichen · 26 Bildschirme
「あら! 帰らないで下さいよあなた! あなた」
という奥さんの声に石川は、
「やあ」
と入口に立ったが、べったり流し前の簀子に座布団もなしで坐り込んでいる彼女の風体とその辺に引散らかしてある物品を一目見ると、君が泣き出したのも無理なく思えた。石川は上り框に蹲み、
「どうなさいました、え? 奥さん」
と声を励ました。石川の胸に、三年前幸雄が力ずくで病院に連れて行かれたのを見たときと同じ、酸っぱいような鼻の髄が痛いような感情が甦った。奥さんは手元にあるだけの株券、公債、銀行通帳、宝石の入った装身具類などを悉く簀子の処へ持ち出し、
「これだけ財産があるんですから、本当に、御迷惑はかけませんよ、――だからどうぞ今日から親類になって下さい、……ね、私達そりゃあ淋しく暮しているんですよ、二人ッきりでね、幸坊と私と二人ッきりでね」
と心をこめて訴えているのであった。傍で、年嵩の女中が気が気で無さそうにそれ等の物を他人の目からかばおうとしている。石川を見ると、奥さんはのり出し、一層優しく、いかにも侘しい境遇にいかにも堪えきれぬらしく云った。
「ね石川さん、そうですわね、あなただって親類になってくれるでしょう? 二人っきりでねえ、私と幸坊とねえ、財産はあるんですものねえ……」