Japanische Klassiker mit Furigana
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ぎせいしゃ
犠牲者
平林 初之輔
Lesen Sie 犠牲者 (ぎせいしゃ) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.364 Zeichen · 37 Bildschirme
「途中で落したと見えてありませんでした」
「どこで落したかおぼえがあるか?」
「ありません」
「君は小使を撲殺した時に、不注意にも現場に落してきたのだ。被害者のそばに落ちていたということだぞ。臨検の警官からの電話で、君の手袋の片一方が発見されたことが明瞭になっているのだ」
今村は、頭から尻へ、串でつきとおされたような気がした。彼を犯人だと信じきった課長は、勝ち誇った勝軍の将が、敵の降将に降伏条件を指定する時のような、確信に満ちた態度で言った。
「どうじゃ、おぼえがないとは言えないだろう?」
「おぼえはありません」
と今村は低声で呻るように云った。そして、こんな返事は却って、おぼえのある証拠であるように思えて、自分で自分のへまさ加減がいやになった。
「おぼえがありません」というような答えは真犯人の常套語であるということを、従来の経験にてらして知りぬいている課長は、今村の返事などは歯牙にもかけずに訊問をすすめた。
「おぼえのない人間が、どうしてつかまった時に『家内はこのことを知っておりますか』なんて云う必要があるのか? 自動車に乗せられるときは『もう駄目だ』なんて独り言をいう必要があるのか? いずれ重大な事件だから、すぐに係りの検事から審問がある筈だが、なまじっか偽を申し立てぬがいいぞ。