Japanische Klassiker mit Furigana
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ねこぐるま
猫車
宮本 百合子
Lesen Sie 猫車 (ねこぐるま) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.310 Zeichen · 35 Bildschirme
ラジオはすぐ「経済市況を申しあげます」と、歯切れのいいような、追い立てられるような口調で云い出した。
「新東百五十三円丁度、ふた十銭やす。親鐘ふた百八十五円丁度。高値五円とお銭。新鐘ふた百七十円八十銭、ふた十銭やす」
坂口の爺さんのめくら縞木綿の羽織の背中はそのうち出すような早口と一緒に畳の上へかがみかかった。我知らず鉛筆を口の隅へあてがってそれを舐め舐め待ちかまえていて「親船八十八円ふた十銭」という声がかかるや否や、紙に細かく印刷されているその呼名の下にローマ数字を書き込むのである。先の太い、唾でふやけた鉛筆で小さい罫の間に書き馴れない西洋式の数字をはめて行くのであるから、絶間なく、弾むような調子で次から次へ流れる株の高低を、坂口の爺さんのスピードでついて行くことは至極むずかしい。おそろしい注意と緊張ぶりで、頸根っこに力を入れているのではあるが、やっと日本鉱業百二十七と書いて、まだ円二十銭迄とは書き込まないうち、ラジオはもう次へ進んで日石、百〇三円四十銭、三十銭やすと叫んでいる。
一度二度とそういうことがだんだんとたまると、もう坂口の爺さんは一層ぺったり紙の上へつくばって、鉛筆をもっている肱を畳につけたまま身動きしなかった。