Japanische Klassiker mit Furigana
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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
Lesen Sie 獄中への手紙 (ごくちゅうへのてがみ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 174.521 Zeichen · 344 Bildschirme
或る大層月の美しい早春、一人の牧人がその泉に通りがかり、何ということなしそのあたりを眺めて居りましたが、渇を感じたのか、何の疑う様子もなく、その前に膝をつき、泉に口をつけました。泉は、日から夜につづいていた半ば眠たげな感覚を、その不思議に新しい触覚で目ざまされました。はじめ泉は、自分がのまれているのだとは知りませんでした。ただ、どこかから新しく自分の力をめざまさせる力の来たことを素朴におどろきました。そして思わず、さざ波立ちました。泉の上にあった月影はそのとき一層燦き立ち、やがて、くずれて泉の中に一つの美しい人影を照し出しました。それは、牧人でした。牧人は泉にずっぷりとつかってしまって、温い滑らかな水の面に、きもちよい黒い髪で覆われた頭をもたげ、水の快適な圧力に全身をゆだねました。泉のよろこびは微妙な趣で高まりうたわれて居ります、泉は、そうやって浴びられ、身をつけられて、はじめて自分を知りました。牧人の靭やかではりきった体は、泉に自分の圧力の快さを知らせました。次から次へわき出でて泡立つ渦の吸引は、そこに同じ快さによろこんで活溌に手脚を動かす体がつけられていて、はじめて泉によろこびを覚えさせます。