Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ことのそらね

琴のそら音

夏目 漱石

Lesen Sie 琴のそら音 (ことのそらね) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.985 Zeichen · 42 Bildschirme

Aozora Bunko

自由でない。圧制されてやむをえずに出す声であるところが本来の陰欝、天然の沈痛よりも一層厭である、聞き苦しい。余は夜着の中に耳の根まで隠した。夜着の中でも聞える。しかも耳を出しているより一層聞き苦しい。また顔を出す。

しばらくすると遠吠がはたとやむ。この夜半の世界から犬の遠吠を引き去ると動いているものは一つもない。吾家が海の底へ沈んだと思うくらい静かになる。静まらぬは吾心のみである。吾心のみはこの静かな中から何事かを予期しつつある。されどもその何事なるかは寸分の観念だにない。性の知れぬ者がこの闇の世からちょっと顔を出しはせまいかという掛念が猛烈に神経を鼓舞するのみである。今出るか、今出るかと考えている。髪の毛の間へ五本の指を差し込んでむちゃくちゃに掻いて見る。一週間ほど湯に入って頭を洗わんので指の股が油でニチャニチャする。この静かな世界が変化したら――どうも変化しそうだ。今夜のうち、夜の明けぬうち何かあるに相違ない。この一秒を待って過ごす。この一秒もまた待ちつつ暮らす。何を待っているかと云われては困る。何を待っているか自分に分らんから一層の苦痛である。