Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
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私はいつの間にか新橋を渡り、芝口の通りを真っ直ぐにぴちゃぴちゃ泥を撥ね上げながら金杉橋の方まで歩いてしまいました。雨は寸分の隙間もなく天地を閉じ込め、私の体を前後左右から包囲して、傘から落ちる雨だれがレインコートの肩を濡らします。ああ、あの雑魚寝をした晩もこんな雨だった。あのダイヤモンド・カフエエのテーブルでナオミに始めて自分の心を打ち明けた晩も、春ではあったがやっぱりこんな雨だった。と、私はそんなことを思いました。すると今夜も、自分がこうしてびしょ濡れになって此処を歩いている最中、大森の家には誰かが来ていやしないだろうか? 又雑魚寝じゃないのだろうか?―――と、そう云う疑惧が突然浮かんで来るのでした。ナオミをまん中に、浜田や熊谷が行儀の悪い居ずまいで、べちゃくちゃ冗談を云い合っている淫らなアトリエの光景が、まざまざと見えて来るのでした。
「そうだ。己はぐずぐずしている場合じゃないんだ」
そう思うと私は、急いで田町の停車場へ駆けつけました。一分、二分、三分………と、やっと三分目に電車が来ましたが、私は嘗てこんなに長い三分間を経験したことがありませんでした。