Japanische Klassiker mit Furigana
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しろくれない
白くれない
夢野 久作
Lesen Sie 白くれない (しろくれない) von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.846 Zeichen · 50 Bildschirme
眼ざめ来れば、身は南蛮寺下の花畑の中に在り。茫々乎として万事、皆夢の如し。わが曾て岳父御に誓ひし一生不犯の男の貞操は、かくして、あとかたも無く破れ了んぬ。
われ此時、あまりの浅ましさに心挫け、武士の身に生れながら、生胆取りの営業を請合ひし吾が身の今更におぞましく、情なく、長崎といふ町の恐ろしさをつく/″\と思ひ知りければ、今は片時も躊躇ふ心地せず。そのまゝ南蛮寺を後にして、諏訪神社の石の鳥居にも背を向け、足に任せて早岐の方を志す。山々の段々畠に棚引く菜種、蓮花草の黄に紅に、絶間なく揚る雲雀の声に、行衛も知らぬ身の上を思ひ続けつゝ、幾度となく欠伸し、痴呆の如くよろめき行く様ひとへに吾が生胆を取られたる如し。
さる程に不思議なる哉。いまだ左程に疲れもやらぬ正午下りの頃ほひより足の運び俄かに重くなりて、後髪引かるゝ心地しつ。昨日吸ひたる香煙の芳ばしき味ひ、しきりになつかしくて堪へ難きまゝに、われにもあらず長崎の方へ踵を返して、飛ぶが如く足を早むるに、夢うつゝに物思ひ来りし道程なれば、心覚え更に無し。今来し道を人に問ひ/\引返し行く程に、いつしか、あらぬ山路に迷ひ入りけむ、行けども/\人家見えず。