Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やのしのとい

矢押の樋

山本 周五郎

Lesen Sie 矢押の樋 (やのしのとい) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.468 Zeichen · 29 Bildschirme

Aozora Bunko

幸兵衛は凝乎と膝の上の手を覓めていたが、やがて静かに顔をあげた。

「宜しゅうございます、直ぐ人手を集めて仕事を始めると致しましょう」

「それから、表向お許しの出るまでは、なるべく仕事も人眼につかぬように頼む。こういう事は先に洩れると失策り易いから」

「承知致しました、わたくし自分で差配をすることに致します。……若しこの樋掛けが首尾よくまいりますれば、百姓共も他国へ逃げようなどという考えは捨てることでございましょう」

幸兵衛の声は哀訴するような響を持っていた。

いま彼が云う通り、城下近傍十二ヵ村の農民たちは、窮乏に耐え兼ねてこの土地を捨去ろうとしていた。元来この地方は十年ほどの間隔をおいて、周期的に旱害、冷害に見舞われている。それが今度は三年も続けざまの旱害で、見る限りの田地は干あがっている、唯一ヵ所、北見村の一部に十町歩ばかり、辛うじて植付けの出来た田があった、彼等は食に飢えている以上に青いものに飢えていた、青い稲田に飢えていた。彼等はその僅な十町の稲田を見ることで、どうにか希望を繋いで来たのである、然しその十町田も、水の不足から将に枯死しようとしている。