Japanische Klassiker mit Furigana
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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Lesen Sie 石狩川 (いしかりがわ) von 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 253.535 Zeichen · 506 Bildschirme
降って湧いたようなこの嬉しさをどうしようもないのであった。少女のように浮き立って――顔を見れば涙がこぼれそうな、こんなに男を待っていたのか、と、われと我が身が憐おしくなる切ないような気持であった。男の足許にしゃがんだが、手もとがふるえるのだ。解いてやろうとする脚絆の紐が縺れるのだ。
すすぎに足をおとして、男はしずかにたずねた。
「お客人はどなたかな?」
あしゆびの股を丹念に拭きこみながら彼は重ねて云った。
「どこぞでお見かけしたようだが――失礼ながら、どうも」
脱ぎすてた足装束を取りまとめていた妻は、何故か耳のつけ根を赤くした。彼女は詫びるように低い声で答えた。
「トキどの――玉目さまの」
「なに?」
ぱちゃンと足をおとして阿賀妻はうしろを振りかえった。あわててその女を見定めようとしていた。
すでにトキ女は炉の前にはいなかった。いつの間にか戸口に近い下座の方に身をすべらし、音もなくそこにすわっていた。自分に向けられる阿賀妻の注意がどんなものであるか、身のすくむような思いで待っていた。こちらを向く気配にもう頭を低げていた。そんなふうに身をかがめて、吹きつけて来る風当りを少しでも避けようとしていたのだ。