Japanische Klassiker mit Furigana
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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Lesen Sie 石狩川 (いしかりがわ) von 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 253.535 Zeichen · 506 Bildschirme
若い人妻はむせび泣くように見えるのだ。阿賀妻は二三歩傍らに出た。返事があるまで、こんなことに関ずらっている余裕はなかった。そして、歩き出したとき、彼女は呼びとめた。
「あの――」
「拙者を阿賀妻と知って、おてまえは呼びとめられるか」
「はい」
「どなたなれば?」と彼は咎めるように云った。
「玉目三郎の――」と、それだけ云って彼女は砂につっ伏した。
阿賀妻は棒立ちになった。
「うん」
彼はうしろ向きのまま、深くうなずいてゆっくり腕を組んだ。忘れたわけではないが、とにかく、忘れていたのだ。身分の相違と、仕事の忙しさは、あの男の妻としてこんな可憐な女がいたなどとは、考えてやるひまもなかった。思い出したように肩をふるわせている若い女を見て、彼ははじめて、沈うつな――哭するような顔で別れた玉目三郎を憶いだしたのである。――何故かその女を見ていると、玉目三郎はやっぱり溺れたにちがいないと思われて来た。
「それで?――」と阿賀妻は促した。
「ご家老さま」と彼女は、あたりを見まわして寄りそうようにした。誰も見てはいない。聞いてもいない。明け放れた空に浸みとおった朝日の黄色っぽい色と、これもまた、愈々あかるい色になった砂の山々であった。