Japanische Klassiker mit Furigana
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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
Lesen Sie 私の履歴書 (わたしのりれきしょ) von 井上 貞治郎 (いのうえていじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 34.380 Zeichen · 69 Bildschirme
息を殺し、全神経を集中しないとブリキのしゃくはカーンとカン高い音を立てる。そろそろとまっすぐにすくい上げ、用意しておいた茶わんに注ぐのである。足音をしのんで寝床に帰ると、これも夜の皿洗いのときに失敬しておいた卵をソバ湯の残りでゆで、寝そべりながら夜食の味を楽しむわけだ。「一日の労苦は一日で足る」。悪いこととは知りつつも、この酒と卵の盗み食いほど楽しいものはなかった。そのころ私はよくひまがあれば横浜の波止場へいった。棧橋に立って思い切り深呼吸をし、巨大な外国船の姿やかもめの飛びかう紺ぺきの遠い海をながめながら、さまざまの空想を描くのだった。十六歳の私の胸は洋々と開けるはずの、限りない前途への期待におどるのだ。
しかし給料については最初の約束と違うので私は不平満々である。ただちょっとした抜け道はあった。中国人のコックたちはよく女遊びに出かけるが、帰りはいつも朝方になる。帰ってくると『アマン、アマン!』(おいボーイ)と私を起こすのだが、私がねむい目をこすりこすり戸をあけてやるとだまって五銭か十銭の白銅をにぎらしてくれた。またビールの空びんや割れた皿などをこっそり廃品回収業者に売って小金をためる手も覚えた。