Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 116.638 Zeichen · 233 Bildschirme
刻々、険悪の度は濃い。敵の師泰は、法成寺址を。師直の軍勢も一条今出川を離れて――
「両勢一万五、六千人。鉦も打たず旗も振らず、音なき波の歩みのように粛々とこれへ向ってまいります」
との、声々だった。
「木像蟹めが」
どうしても、家来筋の師直となす思惟が直義には抜けきれない。そんな男がしかも堂々とこのような反噬に出て来たことが、何とも心外だし堪忍ならぬものに憤られる。
だがこの非常事態がそんな感情でいささかも形を変えるものではない。事は急であった。直義は急遽、土御門高倉の兄尊氏の新邸へ逃げこんだ。よもやそこへはと、一時の難を避けるつもりであったのだろう。
ところが、それを偵知した師直、師泰の軍は、進路をかえて、やがてひたひたと土御門高倉のまわりを厚くとりかこみはじめたのだった。そしてそれまでの声なき波濤は、ここで初めてわああッと物凄い咆哮を揚げ出した。――もしそれに釣られて、内へはいった直義方の将士が武者声に応じたら即座に合戦の火ぶたは切られていただろう。が、諸門をかたくしたまま、邸内の兵はまったく口を緘していた。おそらく尊氏の厳命だったに違いあるまい。