Japanische Klassiker mit Furigana
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ひめられたるそうわ
秘められたる挿話
松本 泰
Lesen Sie 秘められたる挿話 (ひめられたるそうわ) von 松本 泰 (まつもとたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.690 Zeichen · 18 Bildschirme
氷を取りにいった妻があまりに手間取るので見にゆくと、彼女は台所の窓から首を出して、誰かとひそひそ話をしているらしかった。その時浅田は悪いところを見たと思って、そっと寝室へ引返してしまったのである。いずれ後で妻がその時の説明をするであろうと予期していたが、彼女は朝になっても、その事に就ては何事も云わなかった。そんな事を考え合せると、今朝の妻の素振りも、怪しく思われた。
浅田は何となく不安で、仕事が手につかなかった。窓の外は風が死んでいた。箱詰になったような重い空気が街の上に覆さっている。遠くの煙突から細い煙が真直に騰っていた。その瞬間、電車の響も、自動車の音も、人の話声も一時にぴったりと歛んで、不思議な沈黙が街を占めた。と、突然、静まり返った建物を覆すような、けたたましい電鈴が鳴った。
電話室へ飛び込んでいった給仕は、あたふたと浅田のところへ馳けてきて、
「大変でございます。金杉病院から電話で、奥様が自動車で怪我をなすったから、直ぐ病院へおいでを願いたいという事でございます」といった。
「自動車で怪我? 何? 電話がきれたって? すぐ出掛けるから、タクシーを呼んでくれ!」