Japanische Klassiker mit Furigana
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しんのゆうしゅう
秦の憂愁
豊島 与志雄
Lesen Sie 秦の憂愁 (しんのゆうしゅう) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.389 Zeichen · 19 Bildschirme
失恋の結果だという風説もある。大使館から帰還させられたのだという風説もある。公金を費消した疑いがあるという風説もある。重慶側の知識層に知人が多いということは、今では一部に認められている。
彼ははじめ北京に住み、それから上海に移った。
この秦啓源を、星野は文学に復帰させたかったのである。彼の詩は中国文学に一つの生気を齎すであろうと、そう考えた。そして彼を文化活動の表面へ誘致したかった。彼のような能才を市井に潜没させておくのは、惜しみても余りあることだ。星野は、一種の在野文化使節としての使命から、また文学者同士の友情から、彼に逢いたかった。
その望みも果さずに、星野はもう、上海を立ち去ろうとしているのだ。星野が此地に来ていることは、新聞の記事によって、秦啓源は知ってる筈である。すぐにも姿を現わすべきではなかったか。
胸中の後味わるい思いを振り捨てるように、星野はつと立ち上って、知人から贈られたウイスキーの一瓶を戸棚から取り出し、窓際で飲みはじめた。
上海の空はいつも濁っている。それが今暮れかけた陽光を孕んで、へんに盲目的な没表情をしていた。キャセイ・ホテルの五階の星野の室からは、隣りの建物に切り取られた残りの空が、布片のように見え、反響のないその布片へ向って、雑多な物音の入り交った街路の喧騒が立ち昇っていた