Japanische Klassiker mit Furigana
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ほどよいひと
程よい人
豊島 与志雄
Lesen Sie 程よい人 (ほどよいひと) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.328 Zeichen · 21 Bildschirme
封筒に入れた一万円の紙幣を、黙って彼女の机の上に置いてきた。そのようなものを前以て用意していたことを、その時はっきり意識して、頭は熱くなり心は冷え冷えとした。
京子は会社をやめた。他に転勤したものらしい。私へは改まった挨拶もなく、私の方からも手を差延べようとはしなかった。然し、彼女のことは妙に心の隅に残った。それが当然のことかも知れないが、どこかに曇りが出来たような感じだ。そして私は、自然的にもまた故意にも 会社ではすべてに冷淡な態度を取った。口はあまり利かず、笑うことは少く、事務はのろのろとやり、誰にも迎向せず、誰にも逆らわなかった。京子の退職と関連して、私に向けられる視線はなお執拗になったが、私はそれをも無視した。
ところが、或る日、事務の処理にちょっと手間取り、而もその日のうちに片附けておきたかったので、一時間ばかり居残って仕事をした。
そこへ、西山さんが茶を持って来てくれた。
「御勉強ですな。」
善良そうな笑顔をしている。彼はしばしば居残って仕事をするほどの勤勉家である。もう五十歳を越した小柄な男で、いつもにこにこしていて、何の屈託もなさそうで、どの点から見ても善良そのものの感じだ。