Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
Lesen Sie 紫の壜 (むらさきのびん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.802 Zeichen · 24 Bildschirme
私がこれまで知らなかったような接吻の仕方である。唇と舌とを絶えずゆるやかに波動さして……。彼女の過去がそこにもあったのだろうか。二人とも酔っていた。吐く息も唇もアルコールくさかった。アルコールは体臭を消して、ただ純粋な触感だけを残す。彼女の唇と舌との巧妙な波動にあやつられて、私は苦悩に似た忘我の中に沈みこみ溺れこみ、そして※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)きながら、彼女の全身に縋りついていった。
その時、彼女はするりと私の両腕から脱け出した。――私はなぜ彼女をしっかと抱き緊めていなかったのだろう。壊れやすい硝子器にでも取りすがるような姿態だったに違いないのだ。
「センチになっちゃだめよ。」
熱い息で彼女は囁いた。肉付の薄い頬に、凍りついたような微笑が刻まれていた。そしてそれらとは全く別個に、美しい水滴が、彼女の睫毛にたまってほろほろと落ちた。それを私は確かに見た。幻覚ではなかったのだ。
私は黙って、コップにウイスキーをつぎ、水をわった。彼女もコップを差しだしかけたが、その手をとめた。
「いいものがあるわ。忘れていた。」
戸棚をことことかきまわして、その奥からチーズの缶を取り出した。