Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
Lesen Sie 紫の壜 (むらさきのびん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.802 Zeichen · 24 Bildschirme
――店の方の物音に耳をかしながら、冷静に、紫色の壜を手に取った。決心などという飛躍はなかった。覚悟が既に出来上っていたのだ。壜をしばらく眺めてから、蓋をねじあけ、中の薬品を掌に受けた。真白な結晶の粉末だ。
彼女がやってくる気配がした。私は壜を文机の上に戻し、掌の薬品をコップにあけて、そのままちょっと掌でコップを覆って押さえた。
彼女はチーズの缶と平皿とを食卓の上に並べ、前からあったピーナツや焼海苔の皿を片方へ押しやり、ナイフでチーズを小さく切りはじめた。その平凡な事柄が、レンズを通して眺めるように鮮明に見えた。
その時、なにか恐怖に似たものが私の全身を捉えた。寒む気がし、膝頭が震えた。長火鉢にかかってる鉄瓶に掌を押しあてたが、少しも熱くはなく、鉄瓶がかたかた音を立てた。粗相なことをしてはならない、と私は自分に言った。そしてあのコップをそっと食卓の下に隠して、立ち上った。――尿意を催したのだ。
見上げた彼女の眼が、魚のように見えた。
「ちょっと、用をたしてくる……。」
「あら、御不浄はこっちよ。」
そこの狭い汚い便所が頭に浮び、私はそれが嫌だった。
――死ぬなら、立派に死ぬのだ。