Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
Lesen Sie 紫の壜 (むらさきのびん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.802 Zeichen · 24 Bildschirme
私は少し離れて坐った。
突然、言い知れぬ戦慄が私に伝わった。私は彼女の肩に手をかけた。彼女は死んでいたのだ。――次の瞬間に私は気がついた。食卓の下に置いておいた筈のあのコップが、半ば呑み干されて、卓上にあった。
あの時、あの場合、どうして弓子はチーズなどという食慾を起したのだろう。彼女がチーズの缶をあけに立って行かなかったとしたら、情況は違っていたろう。いやそれよりも、私はどうして尿意など催したのだろう。この事件の中で、私が堪え難いほど恥しく思うのは、その一事だ。而もその恥しい一事のために、局面は急転回したのだ。何か訳の分らない恐怖のために尿意が起ったなどとは、私は思っていない。また、万一の場合に粗相なことをしてはいけないと考えて用をたしに行ったのを、卑怯なこととも思っていない。ただ、尿意を催したというそのこと自体を、恥しく思うのだ。その上なお、別個な屈辱までが加わってきたのだ。
「あの晩、君たちは、肉体の関係はまだなかったようだね。」
なにかにやりとした笑いをこめた訊問を、私は受けたのである。つまり、肉体の交りを私が強く意慾していたという風に、推測されたものらしい。