Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
Lesen Sie 紫の壜 (むらさきのびん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.802 Zeichen · 24 Bildschirme
呼吸神経を麻痺さして忽ち窒息死に至らしむるその猛毒は、じかに生命を奪うだけで、関節の硬直をも来させないのだ。上半身を抱き上げた手を私が放すと、彼女の体は柔らかにぐたりと崩れた。それを私は仰向きに真直に寝かしてやり、半ば開いてる瞼を閉ざしてやった。彼女のハンケチを探して、それで顔を覆ってやった。それから、長火鉢の鉄瓶をおろして、炭火をかきたてた。それから、両腕を組んだ。眼をつぶって考えるつもりだったが、眼はつぶれなかった。――大きな不安が襲ってきたのだ。
毒酒のコップに掌で蓋をした時の恐怖とは違い、また、彼女の死を知った時の驚駭とは違い、なにか得体の知れない大きな不安だった。それが室内に濃く充満してきた。犯罪を意識しだすという、そんなことではない。後始末をどうしようという、そんなことでもない。もっと彼女の死体にじかに繋ってるものなのだ。それでも、彼女が眼を開いて私を眺めるかも知れないという、そんなことでもない。彼女が起き上って私と向い合いに坐るかも知れないという、そんなことでもない。生きてた時の通りでそして底知れず冷たいその死体の方へ、私の肉体がじりじりと引きつけられてゆくような、そういう感じのする不安なのだ。