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Japanische Klassiker mit Furigana

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むらさきだいなごん

紫大納言

坂口 安吾

Lesen Sie 紫大納言 (むらさきだいなごん) von Sakaguchi Ango (坂口 安吾) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.899 Zeichen · 26 Bildschirme

Aozora Bunko

やがて、大納言は、息がきれ、はりさけそうな苦痛のうちに、天女のししあいを思っていた。痺れるようなあやしさが、再び彼のすべてをさらった。官能は燃え、からだは狂気の焔であった。彼は走った。夢のうちに、森をくぐり、谷を越えた。京の住居へ辿りついて、くずれるように、うちふした。

翌る日。大納言は思案にかきくれ、うちもだえた。夜明けは、彼の心をしずめるために訪れはせず、恋と、不安と、たくらみと、野獣の血潮をもたらして、訪れていた。

大納言は、笛をめぐって、一日、まどい、苦しんだ。

この笛が地上から姿を消してくれさえすれば、あのひとは月の国へ帰ることを諦めるかも知れない筈だということを――

こな微塵に笛を砕いて、焼きすてることを考えた。賀茂川の瀬へ投げすてて、大海へおし流すことも考えた。穴をほり、うずめることも考えた。だが、決断はつかなかった。

五日の後に笛がかえると思えばこそ、あのひとは地上にいるのであろう。笛の紛失が確定すれば、天へ去らぬとも限らない。そういうことも思われた。

あのひとを地上にとどめるためには、掌中に、常に笛がなければならぬ。そうして、あのまっしろなししあいを得るためにも――そういうことも、思われた。