Japanische Klassiker mit Furigana
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しょっこうとびしょう
職工と微笑
松永 延造
Lesen Sie 職工と微笑 (しょっこうとびしょう) von 松永 延造 (まつながえんぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.696 Zeichen · 144 Bildschirme
私は忍耐した。それは実に悪性の忍耐であった。露店の方を捨てて置く訳に行かないのを感附いた私は、盗人の娘から分れると直ぐ道を取って返した。ところが半ば迄帰って来ると一つの悪心が明瞭にカマ首を持ち上げて来たのを、私は闇の中に見附けた。
「店は何うでもなれ! 私は面白い事の方へ行くんだ!」
私は再び娘を追った。そして何処迄も声を掛けずに跡をつけた。娘は一つの家の前に止まり、中へ入ろうとして一寸注意深そうに後ろを見た。その時である!
「お嬢さん。へへへへへ」と私は闇から首を伸ばした。娘は血が凍ったように直立した。そして、何処からか漂うて来る極く僅かな燈光で私の顔を見入った。彼の女は初め歯の根も合わぬ口を動かして、何か云い出そうとするようであったが、不図思い返したように恐る恐る袂から例の櫛をそっと出して、今度は力強く突きつけた。
「そんなもの、地面へお捨てなさい。へへへそんなもの入りません。へへへ」と私は低い劬るような声で呟いた。それが却って娘を戦慄させたらしかった。彼の女は唖のように唯オオオオオと口走った。事に依ったら本統の唖かも知れなかったのである。
「お嬢さんの名は?」