Japanische Klassiker mit Furigana
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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
Lesen Sie 肌色の月 (はだいろのつき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.706 Zeichen · 101 Bildschirme
「これを他人に拾われるまで、気がつかずにいるなんて……」
久美子は心の中で呟きながら、強く唇を噛んだ。
気の弛みから、ものを落したり、まちがいをしたりするような経験は、久美子にはまだなかった。自分の生存を断絶させようというのは、親譲りの癌腫というぬきさしのならない宿命にたいする崇高なレジスタンスなんだと自分では信じている。久美子のほか、たぶん神も知らない意想の中の秘密を、こんな愚にもつかない男に隙見されたかと思うと、口惜しくてひとりでに身体がふるえだす。とめようと思うと汗がでた。
「すごいというなら、阿片丁幾なんてのがあるわ。これは、たいしたもんじゃないのよ……どうも、ありがとう」
扉口から離れたので、階下へ行くのかと思ったら、そうではなく、足音を盗むようにしながら、ぬうっと久美子のそばに寄ってきた。久美子は気圧されてひと足、後に退った。
「警察の連中は……」
隆がささやくようにいった。
「あなたが父の後を追うようなことをなさるかと……いやな言葉だけど、後追い心中をするかと、そればかりを心配しているんです」
久美子は露骨に皮肉な調子で浴びせかけた。
「すると、これを返してくださるのは、どういうわけ?」