Japanische Klassiker mit Furigana
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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
Lesen Sie 自由人 (じゆうじん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.030 Zeichen · 139 Bildschirme
それからもう見向きもしなかった。
「わたくしどもも、もうおいとま致しましょうか。」
玄関につっ立ったまま、井上夫人は田島を顧みた。田島が黙ってるので、富子へ言った。
「御診察でしょうか。」
「そうではないようでございますよ。どこへ参りますのか、見当がつきませんわ。」
「でも、小泉先生とごいっしょですものね、御心配なことはございますまい。」
「まあどうぞ、あちらへ。」
そろそろと、応接室へ戻って行った。
北村だけは応接室へ戻らなかった。茶の間の方へ行くと、千重子と八重子が、まだ指紋を見比べあっていた。
「おい、も少し酒をつけてくれ。飲み直しだ。」
「ええ、いくらでもつけてあげるわ。」と千重子が言った。「今日は珍らしく、お父さまに、二人ともほめられたのよ。二人とも、指紋がきれいだって。ほら、みんな渦を巻いてるのよ。流れてるのは、両手でたった二本だけ。八重子さんは三本だけよ。小父さまのは……。」
「私のはみな巻いてるさ。完全無欠だ。」
「うそ。そんな指紋てないわ。」
「ここに現にあるよ。」
だが、北村は指を見せはしなかった。妙に気が滅入って仕方がなかった。泣きたくさえなった。