Japanische Klassiker mit Furigana
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えんしょ
艶書
山本 周五郎
Lesen Sie 艶書 (えんしょ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 25.027 Zeichen · 50 Bildschirme
「もうこんなふうにしておめにかかれなくなりますからね」と彼は眼をそらしながら云った、「最後にひと言だけ……お別れにさし上げたい言葉があったんです」
七重は彼をみつめたままうなずいた。
「世の中には苦しいことや悲しいこと、辛いことや汚らわしいことがたくさんある」と彼は云った、「あなたも結婚すれば、どうしてもそういうことを経験しなければならない、そういうとき絶望したり、やけになったりしてはおしまいです、人間にもそれぞれ弱点がある、醜い、いやらしい面が誰にだってあるものです、苦しみや悲しみや、醜さやいやらしいことを経験し、そういうものに鍛えられて、はじめて人間はおとなになってゆくんです、わかりますか」
七重の眼に涙がうかんできた。彼女はその(涙のうかんだ)眼で、なお出三郎をみつめながらうなずいた。
「もういちど云いますが、世の中には美しいことばかりは決してないものです、どうかそれを忘れないでください」出三郎はこう云って七重に微笑してみせた、「自分が若いくせにこんなことを云う資格はないだろうが、七重さんとは長いつきあいだったし、餞別にさし上げる物もないものだから」