Japanische Klassiker mit Furigana
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くさまくら
草枕
Lesen Sie 草枕 (くさまくら) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 84.485 Zeichen · 170 Bildschirme
かちゃりと、小刀があたるたびに、赤い味が笊のなかに隠れる。殻はきらりと光りを放って、二尺あまりの陽炎を向へ横切る。丘のごとくに堆かく、積み上げられた、貝殻は牡蠣か、馬鹿か、馬刀貝か。崩れた、幾分は砂川の底に落ちて、浮世の表から、暗らい国へ葬られる。葬られるあとから、すぐ新しい貝が、柳の下へたまる。爺さんは貝の行末を考うる暇さえなく、ただ空しき殻を陽炎の上へ放り出す。彼れの笊には支うべき底なくして、彼れの春の日は無尽蔵に長閑かと見える。
砂川は二間に足らぬ小橋の下を流れて、浜の方へ春の水をそそぐ。春の水が春の海と出合うあたりには、参差として幾尋の干網が、網の目を抜けて村へ吹く軟風に、腥き微温を与えつつあるかと怪しまれる。その間から、鈍刀を溶かして、気長にのたくらせたように見えるのが海の色だ。
この景色とこの親方とはとうてい調和しない。もしこの親方の人格が強烈で四辺の風光と拮抗するほどの影響を余の頭脳に与えたならば、余は両者の間に立ってすこぶる円方鑿の感に打たれただろう。幸にして親方はさほど偉大な豪傑ではなかった。いくら江戸っ子でも、どれほどたんかを切っても、この渾然として駘蕩たる天地の大気象には叶わない。