Japanische Klassiker mit Furigana
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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下) (くさもみじ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.512 Zeichen · 63 Bildschirme
来るものがあったら拒むまいと思いながら年を送る中、いつか四十を過ぎ、五十の坂を越して忽ち六十も目睫の間に迫ってくるようになった。世には六十を越してから合の式を挙げる人もままあると聞いているから、わたくしの将来については、わたくし自身にも明言することはできない。
しずかに過去を顧るに、わたくしは独身の生活を悲しんでいなかった。それと共に男女同棲の生活をも決して嫌っていたのではない。今日になってこれを憶えば、そのいずれにも懐しい記憶が残っている。わたくしはそのいずれを思返しても決して慚愧と悔恨とを感ずるようなことはない。さびしいのも好かったし、賑なのもまたわるくはなかった。涙の夜も忘れがたく、笑の日もまた忘れがたいのである。
大久保に住んでいたころである。その頃家にいたお房という女とつれ立って、四谷通へ買物に出かける。市ヶ谷饅頭谷の貧しい町を通ると、三月の節句に近いころで、幾軒となく立ちつづく古道具屋の店先には、雛人形が並べてあったのを、お房が見てわたくしの袂を引いた。ほしければ買ってやろうというと、お房はもう娘ではあるまいし、ほしくはないと言ったので、そのまま歩み過ぎ、表通の八百屋で明日たべるものを買い、二人で交る交る坊主持をして家にかえったことがある。