Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きくづきよ

菊月夜

山本 周五郎

Lesen Sie 菊月夜 (きくづきよ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.129 Zeichen · 32 Bildschirme

Aozora Bunko

「そのほうは誰だ、女だな」

「…………」

「申せ、そのほうは何者だ」そう云いながら手燭をつきつけると、狂人はその光を避けるもののように面を外向けた。信三郎はその横顔を見た、横顔から衿あしへのなめらかな線を見た、彼はあっと息をのんだ。

「……小房どの、あなたか」

「あかりを……」消えいるような声でそういった、――あかりを、醜い姿を恥るのであろう、信三郎は手燭をうしろに置き、そこへ片膝をついた。

「話してください、人が来るといけません、必要なことだけなるべく手短にいってください」

小房はこちらへ向き直り、面を見られたくないのであろう、深くうなだれたまましずかに語りだした。――松谷権太夫は、発狂したのではなかった。高力系の秕政と私曲を見かねて、城中に忠左衛門を斬ろうとしたのである。少壮気鋭の人々が『忠左討つべし』といっているが、若い者はさきざき御役に立つ人間だ、自分はすでに老年に及んでいるから、忠左を斬って死んでも御奉公に不足はない、そういう覚悟のうえで斬奸状を認め、万一の場合に写しをとって小房に与え、後事の指図をして登城したのである、それからの仔細はわからない、けれど失敗して逆に高力系の手にかかり、発狂者として斬られたことは、結果の示すとおりである。