Japanische Klassiker mit Furigana
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おちてゆくせかい
落ちてゆく世界
久坂 葉子
Lesen Sie 落ちてゆく世界 (おちてゆくせかい) von 久坂 葉子 (くさかようこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.725 Zeichen · 40 Bildschirme
穢れた食器をガチャガチャ手荒く洗って、ぞんざいに戸棚の中へかさねて置くと、自分の部屋に戻って新聞紙のつつみをほどきました。陶器のそのとろっとした肌を頬につけてしばらくそれを愛撫しました。
「又、姉様の隠居趣味。食うに困ってるのに。そんなもの買う位なら牛肉でも買って来てくれりゃいいんだ」
はいって来た弟の信二郎は、いきなり皿を爪はじきしました。
「いけない。こわれるじゃないの」
私はそれを本棚の上に置きました。父の、「血」が「皿」になったそのことが、私には滑稽に思われて来ました。皿の包みを大事に抱きながら、一人で夜の街を歩いたことが、私を喜ばせます。隠居趣味? 信二郎の云った言葉を思い浮かべました。非難なのでしょうか。嘲弄の気持からでしょうか。私には、羨望だろうと思われました。自分の逃げ場所を、こんなものに求めるところは、父と私のたった一つの共通した点でありました。戦争の始まるもっと前、父は私を連れて、京都の古物屋へよく行きました。そして、茶碗や、壺、鉄びんなどを買って来て、二階の父の部屋に並べました。日本に二つしかないという鶏冠壺は、それ等のなかで、一番大事にしておりましたけれど、戦火の下に、やはり他のものと一しょになくなっておりました。