Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おちむしゃにっき

落武者日記

山本 周五郎

Lesen Sie 落武者日記 (おちむしゃにっき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.460 Zeichen · 23 Bildschirme

Aozora Bunko

一の一

一の一

「もういけない、祐八郎、下ろしてくれ」

「なにを云う」

大畑祐八郎は、叱りつけるように叫んだ。

「ここまで来て、そんな弱音を吐いてどうするんだ、元気をだせ、佐和山まではどんなことがあっても行くと云ったではないか、いいか、石に噛りついても頑張るんだぞ」

「いやだめだ、頼むから……下ろしてくれ」

ほとんど担ぐように、肩へ掛けている田ノ口義兵衛の腕が急にぐにゃっと力をなくした。そして祐八郎が肩をつきあげるようにすると、義兵衛の体は、そのままずるずるぬけ落ちそうになった。

「おい田ノ口、おい!」

祐八郎は驚いて、左手にある竹藪の中へ入って行って、友の体を肩から下ろした。……もう身を支えることもできないとみえて、濡れ雑巾のように倒れ伏すのを、祐八郎は援け起しながら、なんども名を呼びたてた。

「しっかりしろ、おい、田ノ口!」

「……無念だ、おれは」

義兵衛は昏みゆく意識のなかから、ふいにしゃがれた声で大きく叫んだ。

「おれは、忘れないぞ、金吾中納言、犬め、松尾山の裏切り、……無念だ、無念だ」

「義兵衛、声が高いぞ、声が」

肩を掴んで揺すりながら、祐八郎は、ふと藪の向うでなにか物音がするのを聞きとめた。