Japanische Klassiker mit Furigana
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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
Lesen Sie 蜘蛛の夢 (くものゆめ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 147.189 Zeichen · 298 Bildschirme
」
「ちっとも知らなかったよ。」
話はそれぎりでしたが、その時に母は妙な顔をしたばかりでなく、だんだんに陰ったような忌な顔に変ってゆくのがわたくしの眼につきました。しかし母はなんにも言わず、わたくしもその上の詮議もしませんでした。
旧暦の六月末はもう土用のうちですから、どこのお稽古もお午ぎりで、わたくしもお隣りの家から借りて来た草双紙などを読んで半日を暮らしてしまいました。夕方になって、表へ水を撒いたりして、それから近所の銭湯へ行って帰って来ると、表はもう薄暗くなって、男の子供たちが泥だらけの草鞋をほうりながら横町で蝙蝠を追いまわしていました。粗相か悪戯か、時どきにその草鞋がわたくし共の顔へも飛んで来ますので、わたくしはなるべく往来のはしの方を通って、路地の口から裏口へまわりますと、表でさえも暗いのに、家のなかにはまだ燈火もつけていないらしく、そこらには藪蚊の唸る声が頻りにきこえます。
「おや、おっかさんはいないのかしら。」
そう思いながら台所から上がりかかると、狭い庭にむかった横六畳の座敷に、女の話し声がきこえます。それは確かに会津屋の叔母の声で、なんだか泣いているらしいので、わたくしは思わず立ちどまりました。