Japanische Klassiker mit Furigana
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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
Lesen Sie 蝶の絵 (ちょうのえ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.644 Zeichen · 49 Bildschirme
五日ほど前、伊沢の細君が買物の帰りに資生堂へ寄ると、いつもそこときまっている、ギャラリーの鋳金の手摺に寄った卓で、山川花世がむかしどおりのようすでコォフィを飲んでいた。それで傍へ行って、
「山川先生、いつぞやは」
と挨拶したが、赤襷の山川を営門に送りこんでから、今日というその日までのあいだに、戦中戦後を含め、六年という非情の長い時の流れが介在するのだから、いつぞやという挨拶は、なんとしてもへんだった。
「六年といったら、老けるとか痩せるとか、なにかしら変化があるはずなのに、まるっきり、そんなこともなくて、出た日のままの顔で、眼を伏せて含羞んでいるじゃありませんか……それで、ついバカなことをいっちゃったんですけど、気がついて、いやァな感じがしたの。幽霊だとも思やしなかったけど、ああ、夢を見ているんだなって……」
山川が入営したのは、小雨の降る、うすら寒い朝だった。眼を釣りあげた上の姉の常子が、毛布地仕立の大外套の重ね着をして、鼻の下までマフラをひきあげた山川に蝙蝠傘をさしかけながら、なになには、どうとかしなくてはとか、ネオ・レバーを飲むことを忘れないでとか、子供にでもいうようにクドクドと注意していた。