Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅみのいでん
趣味の遺伝
Lesen Sie 趣味の遺伝 (しゅみのいでん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 38.235 Zeichen · 77 Bildschirme
ただ躊躇するから怪しまれるのだ。と決心して例のステッキを取り直して、つかつかと女の方にあるき出した。すると女も俯向いたまま歩を移して石段の下で逃げるように余の袖の傍を擦りぬける。ヘリオトロープらしい香りがぷんとする。香が高いので、小春日に照りつけられた袷羽織の背中からしみ込んだような気がした。女が通り過ぎたあとは、やっと安心して何だか我に帰った風に落ちついたので、元来何者だろうとまた振り向いて見る。すると運悪くまた眼と眼が行き合った。こんどは余は石段の上に立ってステッキを突いている。女は化銀杏の下で、行きかけた体を斜めに捩ってこっちを見上げている。銀杏は風なきになおひらひらと女の髪の上、袖の上、帯の上へ舞いさがる。時刻は一時か一時半頃である。ちょうど去年の冬浩さんが大風の中を旗を持って散兵壕から飛び出した時である。空は研ぎ上げた剣を懸けつらねたごとく澄んでいる。秋の空の冬に変る間際ほど高く見える事はない。羅に似た雲の、微かに飛ぶ影も眸の裡には落ちぬ。羽根があって飛び登ればどこまでも飛び登れるに相違ない。しかしどこまで昇っても昇り尽せはしまいと思われるのがこの空である。