Japanische Klassiker mit Furigana
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おどるちへいせん
踊る地平線(下)
谷 譲次
Lesen Sie 踊る地平線(下) (おどるちへいせん) von 谷 譲次 (たにじょうじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 141.823 Zeichen · 283 Bildschirme
早い。さっと出てしまった。私達は船室へ帰る。
皿の上の魚のように、彼女はいつまでも黙りこくって動かない。なにが彼女の脳髄を侵蝕しているのか、私にはよくわかる。考えてみると、私達は倫敦で相当根を下ろして生活したものだ。人間というものは、勝手な生物である。こうしていざ倫敦とろんどんの持つすべて、英吉利と英吉利の提供する凡てから、時間的にも空間的にも完全に離れようとするいま、私達は急に一種白っぽい、妙な不安に襲われ出したのだ。生れた国へ帰ると言うのに、これは何とした心もちであろう? が、それは、ふたりのすこしも予期しなかった、そして、それだけまた自然過ぎる、長旅に付きものの漠然たる「前途を想う憂鬱」だったに相違ない。
しかしこの「去るに臨みて」の万感こもごもは、ぼうっと黄黒い倫敦の露ぞらとともにすぐ消えて、かわりに私は、この一年あまり欧羅巴地図の上を自在に這い廻って、いま家路に就こうとしている二足の靴を想像する。それは言うまでもなく、ろんどんチャアリン・クロスの敷石も、クリスチャニアのフィヨルドも、シャンゼリゼエの鋪道も、同じ軽さで叩いたし、マドリッド闘牛場の砂も附けば、これからはまた印度の緑蔭も踏むことだろう。