Japanische Klassiker mit Furigana
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とおのへ
遠野へ
水野 葉舟
Lesen Sie 遠野へ (とおのへ) von 水野 葉舟 (みずのようしゅう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 55.903 Zeichen · 117 Bildschirme
木綿の紋付の羽織を着て、田舎風のしまの着物の胸をきちんと合わせた、頭を長くのばしてぴったりと分けた、色の赤黒い、にきびのある、その顔を見ると、私は腹の中でああこの人が荻原かと思った。この人なら、大抵毎朝、洗面場で会って知っている。学生の連中はもう大抵出て行った頃、まぶしそうな眼付きをして、のっそりと顔を洗いに出てくる人だ。
荻原はきまりの悪るそうな笑を含ませて入口に近いところに坐ろうとするから、
「まあ、もっとこっちに。」
と坐蒲団をすすめると、
「え、え。」
と二つばかり頭を下げて、その儘ぐずぐずしている。そこへお八重が入って来て、
「荻原さん、もっと奥にいらっしゃいよ。」
と言うと、やっと、私の前にいざり寄った。
私は何の用かと待ちかまえていたが、相手が何にも言い出そうとせぬから、
「何か御用ですか?」
とこちらから切り出した。すると、一寸あわててどもりながら、
「いいえ、別に用ではないのです。」
と言う。成程アクセントの強い、聞き取りにくい言葉だ。
私はちょっと拍子ぬけがして、相手の顔をまじまじ見ていた。幅が広くまるい、輪廓のぼんやりした顔に、細い眠っているような目をしている。