Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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とおのへ

遠野へ

水野 葉舟

Lesen Sie 遠野へ (とおのへ) von 水野 葉舟 (みずのようしゅう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 55.903 Zeichen · 117 Bildschirme

Aozora Bunko

帰途

一

三月二十七日――陸中のこの山間の村一帯に雪にまじって雨が降った。

その雨で、しだいに解けてきていた、薄い雪の下から黒い土がところどころに見え出した。――一冬通して、土の上をすっかりつつんで積っていた雪が、ところどころに黒い土を見せて来た。黒ずんだ色をして立っている山の林がどことなく灰色になって来た。しんとした、凍った空から、倦んだような光を見せていた日光にも、しだいに春に覚めて行く、やわらかい、力のある光が見えてくる。雪に当たる日の反射にも、暖か味が出て来たのを感じられる。

雪に包まれた東北の野は、のろのろと春に移って行こうとする。長い、陰鬱な、単調な冬が消えて行こうとする。

私は或る研究の材料を集めるためと、一つはこの地方に特別な好奇心を持っていたのとで、一と月ばかり前からはるばるこの陸中のT村に来ていたが、どっちを見ても雪ばかりのなかで、雪国ふうの暗い陰鬱な家の内にいると、心はしだいに重く、だるくなってしまった。

凍って青く光っている、広い野の雪の色も、空気が透明で、氷を透して来たような光を帯びた碧空に、日が沈んで行く。黄昏の空にも、その夕星の光にも、幾日も経たないうちに、馴れてしまった。