Japanische Klassiker mit Furigana
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じゅうべえさんのいっか
重兵衛さんの一家
寺田 寅彦
Lesen Sie 重兵衛さんの一家 (じゅうべえさんのいっか) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.089 Zeichen · 14 Bildschirme
自分が門柱にもたれてぼんやり前の小川を眺めていたとき丑尾さんが自分の正面に立ってしばらく自分の顔を見詰めていたようであったが、真に突然に、その可愛い両腕を左右にぱっと拡げたと思うといきなり飛びつくようにして、しっかりと自分を抱擁した、そのとき自分がそのままにじっとしていたのか、それとも急いで押しのけたか、それはちっとも記憶していない。ただ覚えているのは、丑尾さんが着古した袖無のちゃんちゃんを着て、頭を小ちゃなおちごに結っていたことと、それから、その日の小春の日影が実にうららかに暖かくのどかであったということだけである。この丑尾さんは、たしか自分の家がその後一時東京に移っていたその二年の間に病死してしまったので、十歳にも満たない本当に果敢ない存在ではあった。しかし自分の幼年時代の追憶の夢の舞台に登場する唯一の異性のヒロインはこのやや不器量で可哀そうな丑尾さんであったのである。
重兵衛さんの長男楠次郎さんから自分は英語の手ほどきを教わった。これについては前に書いたことがあるから略する。楠さんは独学で法律を勉強して、後に裁判所の書記に採用された。弟妹とちがって風采もよくてハイカラでまたそれだけにおしゃれでもあった。